米国東時間の2月28日朝8時に、毎年恒例のウォーレン・バフェット氏のバークシャーの株主向けの手紙が公開されました。今年は、急速に悪化・混乱する株式市場、急激な減速を見せる経済環境の中で、大きな注目を集めた様です。
発表後に、私の愛読する米国のブログ等でも素早くバフェット氏の手紙の内容について取り上げていました。このブログでも、昨年に引き続き、今年もバフェット氏の手紙について邦訳を行い、エントリーして行く予定です。
バフェットさんは、投資家として非常に有名でありますが、バークシャー・ハサウェイを44年に渡り経営し、会社を驚異的なペースで大きく成長・成功させた素晴らしい経営者です。バフェットさんは、今までに一度も本を書いて、発行した事ありません。しかし、毎年欠かさず株主向けにかなりのボリューム(今年は22ページ)の手紙を発行しています。
この手紙を読むとバフェットさんがどの様に会社を経営しているのかの感じがつかめます。また、彼の投資、事業、市場、経済等に対する見方、意見も直接読む事で得られます。と言う事で、バフェットさんが書かれた原文を読まれる事が一番と思いますが、私のブログでも日本語に訳したものを順次掲載して行こうと思います。
尚、訳に関してはできるだけ原文の意味を忠実に日本語にする様に努めておりますが、一部英語特有の表記、言い回し等についてや、バフェットさん特有の比喩等は、多少日本語の表現に則した形で意訳する場合がございます。その様な場合、注釈をつけたり、引用を明記する様にしています。できるだけ速やかに掲載する様に努めますが、そのために、誤字や表現がおかしい部分があるかもしれませんが、ご容赦下さい。後で、修正、表現の変更を行う場合もあるかと思います。
前置きが長くなりましたが、第1弾として一番最初のセクション"To the Shareholders of Berkshire Hathaway Inc.:"の訳を以下に記します。皆様のお役に立てれば幸いです。
バークシャ・ハサウェイ株主の皆様へ:2008年の間に、我々の純資産(純資本:Net Worth)は、115億ドル減少しました。これは、我々のクラスAとクラスBの一株当たりの簿価(注:book value: 総資産から、知覚できない資産(intangible asset)と負債を引いたもの)が9.6%減少したことを意味します。過去44年の間(それは現経営陣が会社を取得してから)、帳簿価額は19ドルから7万530ドルに増加しました。これは年に換算して、年間平均20.3%のペースです。
前のページに記載されているテーブルは、バークシャーの簿価とS&P 500 インデックス両方の44年間のパフォーマンスを記録したものです。そして、2008年はどちらとも過去最悪の年であることを示しています。この期間は、企業と地方自治体の債券、不動産、そして商品についても同様に大損害を与えました。年末までに、あらゆる分野全ての投資家達は、まるで小さな鳥がバドミントンゲームの中にさまよい込んでしまった状態と同じ様に、傷つき混乱させられました。
年が進行するにつれ、多くの世界の巨大なファイナンス企業の間で、企業生命を脅かす様々な問題が露見してきました。これは、クレジット・マーケットが正常に機能しなくなることを招き、さらにすぐに全く機能しない重大な事態ととなりました。私が若かった時見たレストランの壁に書かれていた信条”In God we trust; all others pay cash.”がこの国の至る所での合い言葉となりました。
(注:”In God we trust; all others pay cash”は1966年に出版されたJean Shepherd氏の書いた本のタイトルです。大恐慌の時のショートストーリーを集めたものの様です。スタイルはユーモアを交えた短編集とのことです。。
Wikipediaの解説。また、この本の中の話を元に1983年に”A Christmas Story”と言う映画が制作・上映されました。私は知りませんでしたが、有名な映画の様です。
アマゾンのリンクは
こちらです。ブック・レビュー等を読むと何となく感じはつかめるかと思います。
追記;本日、米国人の友人に"In God we trust; all others pay cash"について(本の話等)聞きましたが、知らないとのことでした。世代的間の差がありそうです。尚、米国のお札には、"In God we trust”と書かれていると聞き、見てみたらまさにそうでした。知りませんでした。"In God we trust; all others pay cash"は、「我々の信じるものは神です。神以外の人は現金で支払って下さい。」と言った様な意味です。 明日、別の米国人の友人に聞いてみようと思っています。)
第4四半期までに、クレジット危機は、住宅と株式の急激な下落と共に国を麻痺させる恐怖に巻き込みました。その結果、ビジネス活動の急激な低下を引き起こし、そして、私が今までに目撃した事がない様なペースで加速しています。米国、そして世界のほとんどが、危険なnegative-feedback cycle(否定的な・負のフィードバック・サイクル)の罠に嵌ってしまいました。恐怖はビジネス・事業活動の低下を招き、そしてそれは、更に大きな恐怖を引き起こす事となっています。
この弱体化のスパイラルは、我々の政府に大規模な行動を取る事を駆り立てています。ポーカーの用語で言うと、財務省とFedは"all in”になっています。(注:ポーカーのall in”は、場の掛け金に対して手持ち資金が満たない場合でも賭けを継続する時に宣言すること、の様です。バフェットさんらしい、うまい言い回し、喩えだと思います。
Wikipediaの説明)
以前はカップで測られていた経済の薬は、最近は樽で投与されています。これらの、かつては考えられなかった様な投薬量は、ほとんど確実に歓迎されない後遺症・余波を引き起こします。それらの正確な自然の帰結は、だれでも想像できることですが、激しいインフレを起こす事になることです。さらに、主要な産業は政府の援助をあてにする様になってきています。そして、彼らは町や州の持つぎょっとする様なリクエストに従う様になるでしょう。これらの企業を公的な機関と乳離れさせることは、政治的なチャレンジとなる事でしょう。彼らは快く離れることはないでしょう。
どんなにダウンサイドがあったとしても、金融システム全体の崩壊を避けるためであれば、政府による強力で迅速な行動が昨年は必要不可欠でした。もしもそれ(金融システム全体の崩壊)が起こったとしたら、その結果は我が国の経済の全てのエリアが破壊されたことでしょう。好むと好まざるに関わらず、ウォールストリート、メインストリート、そして様々なアメリカのサイドストリートの居住者はすべて同じ船に乗っています。
この悪いニュースのまっただ中にいるわけですが、我が国は過去にもっと酷い労苦に直面した事があることを忘れてはなりません。20世紀だけをとっても、2つの世界大戦(その内の一つは我々は当初負ける様に思われた。)、1ダースあるいはそれに近いパニックとリセッション、1980年にプライム・レートを21.5%にまで引き上げることになった猛烈なインフレ、そして、何年間も失業率が15%から25%のレンジで続いた1930年代の大恐慌と我々は対処してきました。アメリカは、多くの挑戦を抱えてきています。
しかし、失敗・挫折する事なく我々は常にその様な困難を乗り越えてきました。それらの困難、そしてそれ以外の多くの事柄に直面しながら、アメリカの実際の生活水準は、1900年代に7倍近く向上し、ダウ工業指数(Dow Jones Industrials)は、66から11,497に上昇しました。この期間の記録と過去数十世紀の間どの様な暮らしをし、もしできたとしても、ほんの少しの利益を獲得したころと比べてみて下さい。これまで辿ってきた道も平坦ではありませんでしたが、長期的に我々の経済のシステムは驚く程うまく機能しています。それは、他のシステムが持たない、人間の可能性を引き出し続けているのです。そして、それはこれからも続いて行くことでしょう。アメリカの繁栄はまだこれからです。(America’s best days lie ahead. より直訳的には:「米国の最良の日々が、この先に待ち受けています」)
もう一度、2ページの過去44年のテーブルを見てみましょう。(注:添付のpdfファイルの1ページ目です。恐らく、実際の株主向けの手紙には表紙があり、その次からのページがpdfとなっているのだと思います。テーブルは
こちらを参照して下さい。)44年間の内の75%の年は、S&Pの株は上昇しています。私は、この先の44年間もおおよそ似た様な割合の年が上昇となると想像しています。しかし、バークシャーを経営する私のパートナー、チャーリー・マンガーも私も事前に、その年が上がるのか下がるのかを予知する事はできません。(我々の、いつもの見解ですが、誰もそれをする事はできない、と思います。(注:将来の予測を人・市場は良くしたがる傾向にあり、バフェットさんも頻繁に将来の予測について聞かれることに対する、いつもの彼のコメントです。))
我々は、例えば、経済が2009年の間中酷い状況になるであろうと確信しています、そして、その酷い状況は、多分この先かなりの間続く事となるでしょう、しかし、その結論(見方)は株式市場が上昇するか下落するかどうかとは、別の話です。(注:経済状況がこの先もかなり悪い状況が続くと予測していても、だから、株式市場が下がる、上がるといった予想に結びつかない)
良い年でも悪い年でも、チャーリーと私は、ただ単に以下の4つのゴールに集中します。
(1) バークシャーのジブラタルの様なファイナンシャル・ポジション、それは巨額の余裕のある流動性(の資産・資金)、適度な短期の負債、そして、多くの利益と現金の収益源;を維持する事。
注)ジブラタルは、地中海の要塞。スペイン南端の小半島で英国の直轄領
(2) 我々の事業(分野)において、長期にわたって競争での優位性をもたらす「堀」を広げる事。
注)「堀」(“moats”)に関しては、昨年の手紙で詳しく説明しています。良かったら、
こちらを参照して下さい。
(3) 新しい、そしてさまざまな収益源を確保、開発する事。
(4) 長い年月に渡ってバークシャーの並外れた成果を提供し続ける素晴らしい事業運営マネージャーの部隊(事業の運営部隊)を育成し拡大する事。
原文:http://www.berkshirehathaway.com/letters/2008ltr.pdf
このエントリーは、明日以降に続きます。